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ガンマのはなし その2

2011年06月15日(Wed)

4. コンピュータとガンマ

時代は下り、コンピュータの出力装置(モニタ)としてCRTディスプレイが使用されるようになってきた。このとき、モニタに入力されるのはもちろんテレビ局の電波ではなく、CPUがいろいろ計算した結果であるところの出力である。

最初、コンピュータはモニタが持つガンマ特性を考慮していなかった。50%のグレーを表示するとき、コンピュータはそのまま白の半分、50%の力で表示するように命令を送信していたのだ。当然ガンマ特性によって表示される明るさは白の四分の1程度になってしまうが、特に問題はなかった。なぜなら前回説明した通り、人間の目は暗い部分ほど敏感で、この四分の1程度の明るさを「だいたい中間ぐらいの灰色」と認識していたからである。

ところが、このことはMacintoshにとっては少し問題だった。MacはもともとWYSIWYG(What You See Is What You Get)という、「モニタの見た目とプリンタの印刷結果は一致しているべきである」という至極まっとうな考え方を推進していた。モニタ上で1インチに見えるならプリンタは1インチに印刷するべきであるし、モニタ上で灰色なら印刷結果も灰色であるべき、と考えたのだ。しかし、どうもモニタで表示される灰色よりも、印刷結果の灰色の方がちょっとだけ明るかったのである。

紙にインクで印刷する時、中間色を表現するには細かい線や網点を使用する。新聞やマンガ雑誌を見れば、写真やスクリーントーンの部分は小さな点の集まりになっている。

110615-1

この細かい線や網点を印刷すると、結果は意図した明るさよりも暗くなってしまう。理由はいくつかあって、紙の質が悪いとインクが滲んで太ってしまうからとか、黒インクの下に拡散光が吸収されてしまうからとかあるんだけど、とりあえず印刷業界はこの「意図したよりも暗くなる度合」のことをドットゲインと呼んだ。そして、これはガンマ特性によく似ていた。明るい部分や暗い部分より、中間値の方がより暗くなるのである。

ドットゲインは紙や印刷機によって変化するけど、一般的にはガンマ値にしてだいたい1.8ぐらいであることがわかっていた。なので、コンピュータが明るさ0.5を出力したとき、ガンマ値2.2のモニタの明るさは約21%となり、プリンタの印刷結果は約29%の明るさとなる。この違いが、モニタよりプリンタの方がちょっと明るいという結果をもたらしていたのだ。

110615-2

そこでAppleは、見た目を一致させる為にモニタのガンマ値を1.8で調整するようにした。MacのモニタがWindowsより明るいと言われるのはこのためである。DTPを意識してドットゲインに合わせたガンマ値を持っていたからだったのだ。

もっともこれはちょっと前までの話で、最近では最終的な表示媒体が動画やインターネットコンテンツなどの「モニタで見るもの」であることが多くなってきた。なので、Mac OSX 10.6では初期設定のガンマ値は2.2に変更されている。もちろん、自分の用途に合わせて任意の値に変更することは可能である。

5. モニタのガンマ値

さて、そういうわけで一般的なCRTモニタは2.2、Mac用のモニタは1.8というガンマ値を持っているということになった。しかしこれは標準の話で、自分のモニタが2.2や1.8であるとは限らない。なぜならモニタには個体差があるからだ。モニタごとの見え方を揃えるには、モニタガンマを調整する必要がある。いわゆるガンマ補正である。

ガンマ補正というと、2.2のガンマ曲線を1.0のリニア(直線)にしてしまえばいい、むしろガンマ1.0が至上だ、そもそもすべてのモニタはガンマ1.0となる増幅装置を備えるべきじゃないか、と考える人もいるだろう。しかしそれは大きな誤解である。何度も繰り返したように、人間の目は線形で明るさを感じるわけではない。

テレビ放送が送信前の信号に逆ガンマをかけて「明るく」したのは、ブラウン管がリニアなデータを「暗く」表示してしまうからではなかった。撮影された元々リニアでない「暗い」データを、ガンマ特性で二重に暗くしてしまうからだったはずだ。しかしコンピュータの中では、色は初めからデータそのものである。50%グレーはデータ上0.5であり、リニアなデータなのだ。だからモニタがガンマ特性2.2で「暗く歪めて」表示することによって、人間の目に自然なリニアに見える。もしモニタのガンマが1.0だったなら、人間の目はそれを「明るく歪んでいる」と感じてしまうはずである。

ちょっと実験してみよう。

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画像処理ソフトで、黒と白を1ドットずつ交互に表示した画像を作る。黒(0.0)と白(1.0)が半々なので、遠目に見れば全体の輝度は白の半分になる。つまり「物理的な50%グレー」だ。この灰色はモニタのガンマ値を変更しても変化しない。0は何乗しても0、1は何乗しても1だからである。

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これを、画像処理ソフトの50%グレーで塗りつぶした画像と並べてみる。この右側の灰色は「データ上の50%グレー」である。

おそらく左の方が明るく、右の方が暗く見えているだろう。それは、あなたのモニタのガンマ値が1.0よりも大きいからだ。もし同じぐらいの明るさに見えたなら、あなたのモニタのガンマ値は1.0ということになる。

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同じようにして、上段にドットで表現した「物理的に均等なグラデーション」を、下段に「データ上の均等なグラデーション」を作ってみる。さすがにちょっと見辛いけど、できるだけこの画面を遠目に眺めてみよう。2メートルぐらいがいいんじゃないかな。

上段と下段、どちらが「なだらかなグラデーション」に見えるだろか。

たぶん多くの人が、上段のグラデーションは暗い部分の階調が少なく、明るい方に偏っていると感じてしまうだろう。人間の知覚は情報量の少ない、暗い部分の変化には敏感だ。だから暗い部分は変化が大きいと感じ、明るい部分はあまり変化していないと感じてしまう。結果、物理的に均等なグラデーションは偏ってるように見え、物理的には均等ではないグラデーションの方が自然な変化に見えるのだ。多くの人が自然と感じるのなら、そちらを優先させるべきである。明るすぎるモニタに人類の方が適応するなんて、本末転倒な話じゃないか。

それでもやはりモニタが「歪んで」いるのは良くないことだ、でも50%グレーは人間の目に50%に見えるべきだと主張するのなら、今度はコンピュータが持つデータを暗く歪めてやらなければならない。50%グレーはデータ上0.21、10%グレーは0.006、90%グレーは0.79……いや、Macでは1.8で表示しなければならないから、50%グレーは0.29に、10%グレーは……。

んなアホな(笑)。

そんなことをすれば、今度は画像処理ソフトが困ることになる。たとえばバイリニア法という、画像の拡大縮小に使用される単純な補完方式だと、中間ピクセルを決定するのにピクセル同士の平均値を使用している。1と0の中間は0.5、というわけだ。なのに1と0の中間は0.21にすべし、ということになったら、それに合わせて計算の手間を増やさなければいけない。万事において余計な処理が増えてしまうことになる。

しつこいぐらい同じことを繰り返すのは、これを理解することが重要だからだ。

コンピュータの中のデータはリニアである。モニタに表示すると物理的に「暗く歪む」。そして人間の知覚はそれを「明るく歪め」て感じ、結果トントンで「データ通りのリニア」に見える。なので、モニタのガンマは2.0付近に合わせるのが丁度いい。1.0に合わせるのは論外なのだ。

モニタのガンマ補正とは、ガンマ値1.76とか2.43とか中途半端な個体差をもつモニタを、2.2または1.8、ないし自分の意図した値に調整する作業のことなのである。

というわけで、次回はちょっと寄り道してモニタ調整の話。



Comments

……ここまでは

……だっ、だいじょうぶだ、まだ付いていってる!……だいじょうぶ……(多分)だっ

そういえばドットゲインがありましたね。色校正時と本刷りで仕上がりが違ったり。あれはインクの質や印圧の違いだったりで、理屈は違うのでしょうが、結果論として理解の補助になりました。

Name
rose #4SZw2tfw
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Post Date
2011-06-15
Post Hour
20:53:59

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推理するに・・・

WinPCで印刷用を想定してDTPや画像を作成するにはモニタのガンマ値を1.8に調整して行えば良いと言うことなんでしょうか?

一昨年だったか年賀状コンテストに応募した時、印刷前提の絵造りをしなければいけなかったので、提出前に印刷したら、妙に画像が明るくぼやけて見えて弱りました。
単に安い家庭用プリンターだからと言う事かもしれませんが、ガンマ値の関係があったのかなと読んで思ったもので。

Name
sannzi #u2lyCPR2
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Post Date
2011-06-15
Post Hour
22:07:12

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じっくり回り道していきます(笑)

>roseさん
大丈夫ですかー(笑)。いつでも初回まで戻ってくださって大丈夫ですから~(笑)。
自分は印刷業界の話は(も)門外漢なので、CMYKの話とか校正の話になったりするとかなり怪しです。でも何かしら自分の知ってる話が入ってると、そこが理解の突破口になったりしますよね。
しばらくは画像処理の話が続くと思いますので~。

>sannziさん
うーん、どうでしょう。今のプリンタは大抵カラープロファイルに対応しているはずなので、
設定が正しければ色は合う……というのが建前のはずですけども(笑)
印刷すると、大抵「眠くなる=ぼやける」っていいますね。その分、印刷前にシャープをかけるという説明をよく見ます。ガンマもモニタを直接合わせるよりは、印刷前にレベル調整で1.8/2.2=0.82のガンマをかけたりして様子を見つつ調整するのがいいんじゃないかなと思います。

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Kyotaro #NWbyPjWY
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2011-06-15
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23:37:00

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